せいせいかつ日記

大きな声では言えないような話をします。

詐欺⑤

彼が私に触れる。
それ自体が非日常だ。
異常な世界線だった。


それも私が考えていた、初体験の相手をするとかいう勝手な妄想とはかけ離れて、
いつの間にか大人になっていた彼に現実を突きつけられるというもの。
私は泣いてしまった。
展開に押しつぶされてしまった。
なんて夢見がちだったんだろう。
何を勘違いしていたんだろう。


泣かないでよ、と彼は苦笑して、キスをする。
こっち向いて、顔見せて
そう言って彼は私のことを見る。
嫌がっても無理やり目を合わせられる。


どこで覚えたのそんなこと。
誰とするときもそうやって感情の読めない目でじっと見つめてるの?


童貞じゃないならなんで嘘ついたの?
何回目か分からない質問を再び投げつける。


入れるのは初めてだから。
この後に及んでまだそんなことを言う。
触るだけでいつも終わってたってこと?入れるのだけはだめって言われてたの?
追い打ちをかけるように重ねて聞くと彼はまるで覇気のない声で目も合わせずに
うん
という。


嘘だ。


嘘が過ぎる。


でももしかすると、妊娠に敏感だったり、付き合ってないから挿入はだめ、みたいなルールを作ってる女がセフレなのか?
彼がなかなか認めないので私はそういう可能性について頭を巡らせた。
ベッドに行くまではキス以上はしてないと断言していた彼も、いつの間にかキス以上挿入未満という主張に意見を変えていて、やっぱりなという気持ちだった。
何を言われても嘘に聞こえた。


胸と下と耳を同時に攻められて
嫌でも思考が止まる。
こんなことをしてる場合ではないんじゃないか、こんな仕打ちを受けてされるがままによがっている場合ではないんじゃないか、
そう頭の片隅で主張する私がいたけど
彼の顔を見ていたら、この状況をありがたいと思って浸っておくべきではないかという考えに取り憑かれる。


具体は抽象になって、そのまま霧散して、私の頭の中は彼から与えられる快楽だけになってしまった。


それでも涙は出た。
やるせない気持ちで、胸が締め付けられるのは変わらなかった。


なめるのは好きじゃない?
と彼が聞いた。
なめるって、下を?
と聞き返すと、そう。と一言だけ。


彼を攻める指示が出たのは初めてかもしれない。少し嬉しくなった。
なんなら初めからそれを目標にしていたので、私は言われるがままに彼のを口にした。


あー、ヤバいかも。
彼がそう言って私を止めようとした。
ここは譲ってはいけないと頑なに拒否して舐め続けた。
どうやらセフレさんよりは上手だったらしい。
この瞬間が一番楽しかったかもしれない()
こうされていると俺から何もできなくなっちゃうから嫌だと彼がいうので
なら頭撫でててよと言った。
案外言うとおりにしてくれた。


彼の反応は気持ちいいのか良くないのか本当にわかりにくかったけど、
うまいね、って言ってくれたのは嘘じゃない気がした。
そうしているうちに彼は急に私の頭においた手に力を入れぐっと喉奥まで無理やり自分のを押し込んだ。


出た。
ドSだから絶対こうなると思ってた!


彼氏のに比べて短いからまだ耐えられたけど本当に死ぬんじゃないかと思った。
その人相手じゃなかったら私はもう少し強めに抵抗していただろう。
彼は何度も私の頭をぐっと押さえつけ、喉の奥までそれを突き立てた。
ある程度奥までいったら、私の手首を掴んでベッドにも体にも触れられないように頭より上で静止させられた。


なるほど、こうしたらベッドを押し返して抵抗できなくなるわけだ。
ドS怖いなぁ
もはやそんな悠長なことを思っていた。
私にとっての初体験ばかりで笑える。


本当に苦しかったし、さすがにこれで目覚めるってことは私はないだろうと確信した。
私が苦しんで藻掻きながら必死に呼吸法を考えている間、
あったかくてこれが一番気持ちいい
と笑ってる彼はほんとに狂ってると思った。
だけど嫌だった?と聞かれて
本気で抗議するわけでもなく、逃げ出すわけでもなく
苦しいけどそんなに嫌じゃないかも…
とか返してる私が一番異常だったかもしれない。


そのあと彼は
いれたい?
と私に聞いた。


こういう聞き方はあまり好きじゃないので、入れたいのは自分じゃないの?
と普段なら噛み付いていただろうが、
うん、入れたい
と力なく答えるしかできなかった。


私ってMなのかなぁ
別にねじ伏せられたわけでもないのに勝手に力の差を感じて無抵抗になってしまう。


彼はラブホに備え付けられたコンドームを手にした。
2つあった。
2回分あるね、私ゴム持ってきたけど。
私がそう言うと
俺もゴムは持ってきたけどな。
と彼は言った。
そんな話をしながら手早く彼はゴムを装着した。



絶対に童貞じゃない。

詐欺④

初めてじゃないならなんで私としようと思ってくれたの?
そう聞いたら


俺としたいと思ってくれてるならしたいと思う
と言われた。


なるほどなぁ、それもそうかもな。
お前のこと抱きたいってずっと思ってる!って言われ続けたら私もまあいっかってなるかもな。
普通に納得して何も言えなかった。


年齢的に童貞だときついとか、したい気持ちが最近強くなってきてるとかそういう説明を真に受けていたけど、実際はそうじゃないんだ。


彼がセフレと上手くいってるのかは知らない。
満足のいく頻度でないのかもしれないし、そもそも連絡が途絶えてしまったのかも。
私を新しいセフレにしようという様子ではなかったけど、性欲の解消には良かったのかもしれない。
もしくは性欲の解消でもなんでもなくて、あまりにもしつこいからついに折れて時間を作ってくれただけなのかも。


何にしても酷いことをされている気持ちは拭えなかった。


私が勝手に舞い上がってただけ、
嫉妬する権利なんかほんとは私にはない。
傷つく筋合いなんてない。


だけどこんなに傷つけられる必要はあったのか?
抱いてもらえるだけありがたいだろってこと?


何度も泣きそうになるのを我慢した。
嘘つき、酷い酷いって喚いても
ごめんって笑うだけだった。


彼にも脱いでほしいともう一回お願いしたら渋々脱いでくれた。


彼氏のと全然違う体。
腹筋も割れてないし、見ていて興奮するタイプの体つきではないけど、
彼と素肌で触れ合っていることにこの上なく高揚した。


自分が脱いだところで彼はようやくベッドに向かった。
酔いが回ってるのは本当らしく、よろよろ立ち上がり、おぼつかない足取りでひとりでにベッドに倒れ込んだ。
私はそれを追いかけて、うつ伏せの彼に覆いかぶさった。


それでいいのか?と彼は私をすぐにどかして体勢を変え、
仰向けに転がされた私を組み敷いた。


彼の視線が刺さる。


彼はまた私の中に指を入れた。
激しくピストンすることはなく、中で指を蠢かせてる。
あるいは指を浅いところまで引き抜いて焦らし、好きなタイミングで奥まで一息に突き刺す。


こんな意地悪な攻め方がよくできるなと思いながら、私は肩で息をしていた。
セフレは奥が好きなんだろうか。


大概はすごく気持ちが良かったけど、ときどきすごく痛かった。
爪を突き立てられている気がした。
おそらく膣の奥の奥まで指を押し込んで、内壁を押しているのだろう。
痛い痛いというとさすがに指を抜いて謝ってくれた。
痛がらせる趣味はないらしい。


私の反応はセフレより良いらしく、そこだけは満足してもらえてるような気がした。
それしか褒めるところがなかったから何度か指摘されただけかもしれないけど。


可愛いとかエロいとか、最中に全く言ってくれなかった。
タイツを脱いで下着だけになったときに
ブラとセットか。今日のこと意識してきた?笑
って意地悪に見下された。


まあそうなんだけど。
そのとおりなんだけど。
ここはMなら興奮するところなのか?


私は意地悪言われたり強引にされたりするのは嫌いじゃないけど、
そればっかりだとすごくきつくなってくるようだ。
ここまで攻め抜かれたことがないので、私の性癖の詳細なんて考えたことなかった。


少しで良いから言葉がほしい。
思ってること教えてよ、気持ちいいとか、そういうこと…
何回かお願いしたけど聞き入れてもらえなかった。


私の弱いところはどんどん見つけられてしまう。
どう攻められたいか少しずつ知られてしまう。
聞かれたら答えてしまうし、何より体がすごく正直に応えてるから。


だけど彼のことは全然分からない。


触らせてももらえないし、したいことをさせてもらえない。


こんな一方的なセックスあるか?


しかも気持ちは置いてけぼりで、体だけが彼に慣らされていく。
開拓されてしまう。


俺の弱いところはまだ知られてないね。
ってわざとらしく言うから攻めたほうがいいのかと思ったけど、やっぱり阻止された。
なんなんだろう、ほんとはものすごくMなのか?
わっかんねぇ。


ある意味私はマグロ状態で、彼に阻止されない程度に彼の体にぺたぺた触れたり、髪をなでたりするので限界だった。


彼に優しくされたい。
今だけでいいから、夢中になってほしい。
夢中になっているふりをしてほしい。


気づいたらだんだん濡れなくなってしまっていたみたいで、彼はあららという顔をしていた。
そこでそれまでずっとしてくれなかったキスを自分から急にしてくれて、
驚いてめちゃめちゃに濡らしてしまった。
分かりやすいな、と笑われた。
そのことにすら興奮した。


それから彼は良いタイミングで急にキスをするようになり、そのたびに私は濡らしてしまう。


完全に彼の意のままだった。



わけもわからずに快楽に負けていた。

詐欺③

これで私の違和感はほとんど確信に変わった。



こいつ多分童貞じゃない。



さすがに想定外すぎた。


彼は聞いた、
童貞じゃなかったら俺とはしないのかと。


童貞がほしいけど、しないわけじゃないよきっと。
みたいなことを答えた。
だって、私はその人としたかったから。
童貞にかなり固執してはいたけど、童貞じゃない彼に興味がないわけではない。


確かにそうなんだけど。


それはそうなんだけど。



まさかほんとに童貞じゃないの?



彼は笑ってた。
それから私の口の中に指を突っ込んで舌を弄んだり、頬の内側を指で押し上げたりした。
さらには引き抜いた自分の指をぺろっと舐めて見せた。


こんな童貞がどこにいるんだよ。


お前童貞じゃないよな!
って言うと
いや童貞だよ
と答えてまた手慣れたキスをする。


こんなキスしてキスだけで終われるわけない、どうやって帰ってくるの
って聞いたけど、だってしてないもんと言う。


その問答をしてる間も彼は手を止めない。
着ていたシャツのボタンを丁寧に外して、
ミニスカートに突っ込まれていたシャツを慣れた手付きで引き抜いて、背中に手を這わせた。


手冷たいかもしれない、ごめんね
と言われた。


シャツはするする体から落ちて、下着とレースのインナーが残った。


エロいなと彼は言った。
終わってから思えば、服装に対しての感想はマメだった。
どこで覚えたのだろう。
エロいと思ってもらえたなら着てきて正解だったよ
と余裕を見せてみたけど、本当はもう頭がパンクしそうだった。


なんだこれは??


本当にされるがままでそれを指摘されたときはすごく恥ずかしくなった。


すごくえっちなキスをしながらブラを外して
キスに気を取られてブラ外されてるの気づかなかったんじゃない?とからかわれた。


そのあとすぐ胸をいじられて私はすぐに息が上がってしまった。


今何が起こってる?


何度かお前童貞じゃないよなと抗議したけど、まともに取り合ってもらえなかった。


ときどき会ってこういうことをする相手はいるけど
キスの先は初めてと言う。



嘘だ。



さすがに嘘が下手すぎる。


こんな手慣れた童貞いてたまるか。



彼のやることなすこと全てに煽られて興奮して感じている自分が本当に恥ずかしかった。
でも私が何かしようとしたら止められるから反撃できない。
思いっきり押さえつけて仕返しするべきだったのだろうか?
私にはそこまでする勇気がでなくて、本当にされるがままだった。


彼は楽しそうには見えた。
私の反応を楽しんで見ていた。


でも発する言葉のすべてがどこか嘘めいていて、彼の本心はどこか別にある気がして
あるいは私を興奮させるために虚言を並べているように思えて
興奮する体と裏腹に心が冷えていくのを感じた。


気づいたら着ていた服を脱がされて、あとはタイツと下着だけというなんともはしたない格好になっていた。
俺は一枚も脱いでないのに自分だけ脱いでるよ
って指摘されて
そっちも脱いでよ!って言ったけど聞いてもらえなかった。


脱がせておいて彼は何もせず私の体を舐め回すように見て
恥ずかしい?と聞いた。


恥ずかしいよと答えると、満足げに笑って私の手首を掴んで背中の後ろで拘束した。
胸を突き出す形になって、それでも何もせずに見ている彼の視線に羞恥で震えた。


挙げ句にでてきた言葉は
高校の頃より小さくなったんじゃない?
という全く聞きたくもない感想で、人の心がないんじゃないかと思った。
こいつドSすぎないか??


悔しくて悲しくて恥ずかしくて耐えられないのに
気持ちよくて興奮して


夢を見てるのかなと何度か意識を手放しかけた。


翻弄されているという事実に興奮した。


彼が私を見ている。
じっと見てる。
私に触れてる


全然嬉しそうじゃないけど。
何を考えてるのか分からないけど。
今は確かに独占している。
それだけでいいんじゃないか?
そう考える自分も確かにいた。


だけどやっぱり
彼をここまでいやらしく育てた初めての相手にすごく嫉妬した。
私が何度もしようしようとちょっかいをかけるのをどういう気持ちで見てたんだろう。
童貞捨てたいってどんな気持ちで言ってたんだろう。


本当の初めてはいつなの?
どさくさに紛れて聞いても彼は答えない。
ごちゃごちゃ言う口は塞がれる。


彼は何を考えてるんだろう。
そう思って彼の下半身に触れてみた。


ちゃんと硬かった。


それだけが救いだった。


私の手はすぐに制され、代わりに彼の指が中に入ってきた。
その事実だけですごく濡らしていたとは思うけど、
困惑が勝っていたようで、いつもみたいにぐっちゃぐちゃということではないようだった。
私にしては珍しい、でも無理もない。


悲しいのは本当だから。
いくら興奮していても、心が満たされていないのだから。


中で指が動いて、声がいっぱい出てしまった。
キスしてって言ったけどしてくれなかった。
したい?
したいならお願いしてと言われたけどお願いの仕方なんて知らない。


お前、Sだったの?というと
そっちがどう見てもMだからって言われた。


こんなこと言われるのドSの先輩とヤったとき以来だ。
彼氏もMっ気が強いし、これまでの人も攻められるのが好きな人が多かった。
私は自分ではSが強いと思っていたし、もし彼のことを上手く攻めることが出来て、彼の可愛い反応のひとつでも見られたならすぐに嗜好が切り替わっていただろうけど。
彼は絶対に攻めさせない。攻める手を止めない。


私の中のMなところばかり刺激されて
ほんとに目覚めるんじゃないかと思った()


本当はMだけど私がMすぎるから合わせてくれてるのかもしれない、
話しててそんな気もしたけど、彼の気持ちはわからないし私は完全に攻められるモードになっていたので何をされても抗えなかった。


こんなに気持ちがグチャグチャなのに体だけ反応しやがる〜〜このポンコツ!!


ベッドに行きたいっていう気持ちも聞いてもらえなかった。
もう少しここでしようって言われた。
私が触ろうとしたらすぐに阻止される。
キスしたいって言っても手で塞がれる。
拗ねてそっぽ向いたら頭を掴まれて無理やりキスされる。


彼はもともとこうだったのだろうか。
それとも初めての相手がかなりのマゾでその子を喜ばせるプレイをしていたらこうなったのだろうか。
彼をこんなひねくれたサディストに仕立て上げた奴がいるとしたら本当にむかつく。
真性Mにはなかなかクるプレイだろうと思う。
正直私もこういうのも悪くないなと感じた。


だけどせめて彼の気持ちが聞きたかった。
その言葉だけはほしかった。


私のことどう思ってる?どう見えてる?
今何を思ってる?


セックスすれば少しは普段見せてくれない内側が見られると思っていた。
私だけが知っている彼になると思っていた。



だけど全然そんなことはない、むしろ前より分からない。


分からない分からない



何も分からない。

詐欺②

その人も十分気が動転してるようだが、
それ以上に動転していたのは間違いなく私の方だ。


本当に?


今いいといったのか??


彼は
もういいよ、しよう!
という感じで一旦は吹っ切れた態度を見せ、そのあとまた
あ〜やめとこうかなぁ
というのを延々繰り返していた。


私はもうほとんど話が耳に入っていなかった。


心臓が口から出そうなほど脈打っていて、変な汗が出てきて、血が沸騰してるんじゃないかってほど体が熱かった。
顔が火照って冷静ではいられない。


これは夢か?本当にこんなことが起こって良いのか?


夜中だと言うのに叫びだしたくなるのを抑えて、とりあえず彼の行ったり来たりを見届けていた。


童貞を捨てるのに協力するというような話のはずが、私の熱烈な願望を聞いて気を良くしたのか
やりたいならやってやるよ
みたいなスタンスで物を言っていた。
でもそれもそのときは全く気にならなかった。


確かに童貞をほしいのは私。
彼の、童貞を捨てたいというお願いを、私が叶えてあげるわけではないのだ。
私がお願いしているのだ。


そもそもそのことに気づいたのも電話を切って、眠れないながらに無理やり就寝して
翌日彼氏に事の顛末を説明している最中だった。


私がお願いしたから機会をくれた…


この日は彼氏とデートしながら2人でずっと夜の話をしていた。


我ながら本当に面倒くさい性格なのだが
私はこのとき期待や興奮より不安が圧倒的に勝っていた。


前にも書いたが、本当にこんなことが起こるとは思っていなかった。


本当に初めての相手になれるなんて…


でも途中でつらくなって萎えさせてしまったらどうしよう?
私は別に何かすごいテクを持っているわけでもないけど、ちゃんと満足させられるのか?
私の顔を見て、あまりのブサイクさにやる気をなくしたりしないだろうか?


今まで何度も夢に見たことだが、
何度試みても私とその人がセックスをしているところなんて想像できなかったのだ。
絵が浮かばない。
彼がどんな言葉かけをしてくるのか、私が何を言えば喜んでくれるか、全く見当もつなかい。


最中の不安と同時に、その後のことも不安になってきた。
その人は高校の友達で、共通の知り合いも多い。
2人で会う以外にも顔を合わせる機会は少ないながらに年に数回はある。
そのときに変な空気になったりはしないだろうか。


これまでにも高校の頃の知り合いとそういうことをしたことはあるが、
ここまであれこれ考えたことはない。
話されて困るのはお互いだから、とバラされる心配もほとんどしてなかったし、顔を合わせても普通でいられる自信があった。


おそらくその人としても、その後ドギマギすることはないだろうが、やっぱりこれまでの人より近い存在だったので不安があった。


この日はずっっとこんなことばかり考えていて、彼氏には本当に申し訳ないけど、
彼は私が頭を抱えているところを楽しんで見てくれていた。
励ましてくれたり、煽ってくれたりした。
私達は運命共同体だ。


自分で自分がほんとにめんどくさい。
ずっと自分で押して、口説いてきたのにいざこうなったらどこまでも弱気でどこまでもネガティブだ。


彼氏とのデートも終えて家に帰って晩ごはんを食べたが、全く味がしなかった。
食欲が全くなかった。
でも違和感を察知されては困るし、このあとは友達の家に泊まりに行くことになっているので元気よく振る舞わないといけなかった。
すぐにでも箸を止めたいのを必死に堪えてすべてなんとか嚥下したところで部屋に籠もった。


逃げ出したかったし、手の震えが止まらなかった。
彼とやっとできるんだ、初めてになれるんだ
という喜びと
ヘマをやるんじゃないか、引かれたらどうしよう
という不安で頭がグチャグチャだった。


その人は夜まで出かけているらしく、私は時間を潰して待っていなければいけなかった。
しかし動悸と冷や汗で何も手につかなかった。
熱っぽい体を抱え込んで、少し眠った。


しばらくして目が覚めてもまだ時間には早かったので、
彼氏との公園デートに合わせて着ていた動きやすい服装から
自分なりに考えた女を出した服装に着替えた。
こういう部分は恥ずかしいからあんまり人に言うことではないかもしれないけれど。
それで気持ちを切り替えようとした。
結果的に不安は解消されなかったが
私から誘っておいて私がうだうだしてるのは相手に迷惑だ、というふうに気合を入れ直すことはできた。


程なくしてその人から連絡を受け、待ち合わせ場所に向かった。
ホテルに向かう前にお金を下ろして、お酒を買って、
特に中身のないことを言いながら自転車を漕いだ。


ホテルが空いているか心配だったか、目星をつけていたホテルに空室があって路頭に迷うことはなかった。 


部屋に着いて、なんとも言えない空気に耐えかねとりあえず酒をあける。
お腹が痛いというので帰るか?というと
帰っていいなら帰りたいと言われ
私がお願いしてここにいるんだなと再度実感した。


とりあえず酔わないとできないようだし、時間もあるからそこまで性急にならずともその場の流れでできればいいと思い、私はちびちび飲んでいたが
彼はその横ですごい勢いで飲んでおり、先に酔っぱらって私にもたれ掛かってきた。


酔ったら我慢できなくなるタイプなんだね、面白いねって私はケタケタ笑ってたけど、
彼はすでに朦朧としていて


私の首筋に顔を埋めた。


そのままそこにキスを落として、私を抱きしめた。


始まるんだ…、と処女のようなことを考えながら、私も首筋にキスをした。


彼はされるよりしたいタイプらしく、私がそういうことをすると反応してるのかしてないのかわからないくらいのタイミングでそれを払い除けて、私を攻める。


彼は次に耳をなめて
耳弱い?
と聞いた


相手は童貞だから、とかいう余裕はその人を前にしては全くなかったが、それ以上に私はされるがままだった。


耳舐めてみたかったのかな、と冷静に考えている自分と、ただ快感に困惑している自分とで既に分離しグチャグチャだった。


ずっと焦がれてた彼のその口で攻められてるんだということだけでいっぱいいっぱいだった。


だがこのあと


どっちの耳が弱い?


と囁かれたときに



違和感を覚え始めた。


童貞にしてはキザなセリフすぎないか?


それも童貞が背伸びをしてどこかで覚えたセリフを口にしているような気恥ずかしさは感じず、
日頃からそれを誰かに、私にしたように、囁いているのかと思えてしまうほど自然だった。


そのあと顔がすぐ近くにあって、


キスをした。


最初から舌が入ってきて、
私の口腔をなぞった。



キスは絶対初めてじゃないなと確信した。



それに合わせるように


ちなみに言うとキスは初めてじゃないよ



と彼は言った。

詐欺①

ずっとヤりたいなぁって思ってた高校の友達がいた


彼氏もいるのにこんなこと言うと多方面に刺されそうだけど、私はその人が気になって仕方ない。


全然付き合いたいとは思わないし、彼氏には到底敵わないんだけど、その人に彼女ができたらきっと発狂するし、めちゃめちゃ病むだろうなぁってずっと思ってる。


なんなら大学で女の子とべたべたしてるのが風の噂で聞こえてくるだけでその日はかなりブルー。
でも別にその人にとっての何者でもない私には止める権利がない。
嫉妬する権利すらないと言える。でもこれは勝手にするんだから許してほしい。誰にも迷惑かけてないし。


それで私は考えた。
いつか彼女はできるかもしれない。それは仕方ない。
ならその前に、彼の何かしら特別になりたい。


出た結論が


童貞をもらっちゃえばよくね?


男の子にとっての初めては女の感覚とは違ってさほど特別でもなんでもないかもしれないけど、
私にとっては男のそれも女のそれもすごく大切なものだ。


本来の狙いはそれで彼のはじめてっていう唯一無二を事実上もらって、彼の記憶の中に私の存在を残すことだったけど、
男と女の価値観の違いについて考えるようになって、目的はそれより私の精神安定の比重が大きくなった。


最近特にすぐ嫉妬してしまう。
女の子と距離近いなーとか
私とは飲みに行ってくれないのにしょっちゅう他の子と飲んでるなーとか。


初めてをもらったっていう事実さえあればそういうことにいちいち心を揺さぶられなくて済むんじゃないかと思った。
彼が私をどう思ってたとしても、童貞喪失という日が彼にとって大した出来事にならないとしても。
私の中でその事実さえあればもっと落ち着いていられる気がしたのだ。


それで私は彼に会うたびに性欲を煽るようなことを言ってみたり、童貞がほしいってことを言い続けた。


そのたびに彼は
もっと自分を大事にしろ、彼氏が悲しむぞ
って優しく諭した。


その気がなかっただけかもしれないけど、
私は彼のこういうとこも好きだった。


私都合の良い女ですよって言われて踏み留まる男の子ってあんまりいない(気がしてる)。
私は別に可愛くもないし美人でもないけど、穴さえあればなんとでもなるのだ。
彼氏は怒らないタイプなんだよね、って言えばだいたいみんな食いつく。


でもこいつは絶っっ対になびかない。


童貞ちょうだいと言い続けて何年か経つけど全然なびいてこなかった。
断られてかわされるたびに好奇心が強くなって、もっともっとしたくなった。
なんなら断れるのを分かっててそのやり取りを楽しんでただけのときもあった。


諦めていないつもりだったけど本当はどこかで
どーせ無理だろうなと思っていた。


彼とすごく密着する夢を見たことがある。
どっちかっていうとえっちな雰囲気の夢。


男の子とえっちしちゃう夢はときどき見る。願望なのか単にムラムラしてて誰でも良かったのかわからないけど。


でもその人が出てくる夢では絶対にえっちをしない。
ていうかできない。想像できないから。


だからいつも添い寝してるとか、優しく抱きしめられるとかその程度。
それで私は十分舞い上がれたし、それでこそリアルな気がした。


彼とセックスなんてほんとに考えられない。


このまま私が一方的にしようしよう言い続けて、いつの間にか彼に彼女ができて病んで終わるんだろうなと思ってた。
そのことを思えば毎回諦めたくないって気持ちが湧いてくるけど実際進展はないと思っていた。



だけどその日は突然来た。


彼の性欲のフラストレーションが溜まってるのは会話をしていてすぐにわかった。


数人で遊んでるときに自分から
童貞そろそろ捨てたいな
と発言しだした。
普段そういうことは私が煽ったときにしか言わない。
別に下ネタがだめな集まりでもないし、いつも下世話なことを言って盛り上がってはいるんだけど、自分から自分のことについて明言することってあんまりない気がした。
さすがにみんながいる前で私としようよとは言えなかったので、言葉に詰まった。


そのあと2人で会うことがあったけどそのときもそんな話をしていて、
私はここぞとばかりに私としよ!って言ったけど、かわし方にいつものキレがなかった。


もしやさぐれたらその時は、、、
みたいな濁し方したり


早く童貞捨てて報告するね
みたいな意地悪を言ったりした。


まあいつものことっちゃいつものことだけど、なんか違う空気感を感じて私は
これはいけるかもしれない、と思った(バカ)。
と同時にそろそろほんとにやばいかもとも思った。


彼は適当なことを言ってるけどサークルの関係上女の子との絡みは少なくない。
大学生あるあるだが男女混合でお泊まりしたり、酒を飲み明かして雑魚寝したりしてる。
ヤりたいのは男だけではないし、少し気のある男の子から唆されたら誰だって乗ってしまうんじゃないか?
彼の周りはヤれそうな女ばかりに感じられて、なんとも焦りを感じた。


その日別れて帰宅したあとも、LINEで煽ったりしてみた。
やっぱりだめだと言われたけど、私の彼氏は気にしないんだということを強く言ったら少し考えてはいた。


その人は私の彼氏にも連絡していて
お前の彼女を止めろと言っていた。


しかし彼氏はなにせ性癖を拗らせた変態だし、そもそも恋愛と性欲を切り離して見ているので、彼氏が私を止めることは危険を感じたとき以外ないのだ。
無駄でしかなかった。


彼氏はなんなら私のことを強く推した。
俺は良いと思ってるからお前が良いなら好きにしてやってくれと。
(やばいやつすぎるけど私は彼氏が大好きだ。)


それで彼も揺らいだのかもしれない。
あとは完全に酒の力。


バイトの帰りにその人からLINEが来ていた。


悩む
と一言だけ。


適当言ってるようにしか聞こえなかったので
その気もないくせに笑
と軽口を叩いたけど、
彼はそのあとふざけているとは思えないような返事ばかりしてきて、


挙げ句には電話をかけてきた。


彼と2人で電話することがまずないので、私の心臓は限界だったけど、これを逃してはならないととりあえず応答した。


彼はすごく酔っていた。


本人もそのように言っていたが、理性がかなり欠如しているように見受けられた。
あるいは酒の力を借りているという体の演技だったのか。


彼はすごく悩んでいた。
やはり私の彼氏のことがちらつくらしい。
ふむ、なかなか正常な倫理観をお持ちだ。


だけど私が言うことは変わらないのだ。
彼氏は気にしないし怒らない。なんなら興奮するんだと。(興奮することは伏せた)
私のことが生理的に無理でないならしたい、しようよと言い続けた。
誰でも良いなら私でいいじゃないかと。


彼は本当に長いこと悩んでいて、また酔っているので、同じことをうわ言のように何度も何度も一人で繰り返して、どうしようどうしようと言っていた。
理性と性欲の限界を目の当たりにした。


彼は不意になぜ自分の童貞をそんなに欲しがるのか聞いてきた。


これほどのチャンスは金輪際なさそうなので、私はこれまで考えていたことを全部話した。


案の定重いと言われたまでは良かったが、
彼は何を思ったのか自分が日頃どれほど女との接触があってこれまでどういう過ごし方をしてきたか話し始めた。


よく通話している相手がいること。
下宿している友達の家は狭くて、女の子と密着して座る形にいつもなること。
よく飲みにいっていて理性を抑えるのに苦労していること。
女の子と出かける予定があること。


自分は何者でもないけど
本当に聞きたくなかった。


頭が痛くなって胸がズキズキして、吐きそうだった。
彼の口から女の子の話など聞きたくない。
SNSで見るだけでもゾッとするのに。


彼はすごく意地悪な口調だった。
私が傷ついて黙りこんで声を震わせているととても満足したようだった。
その後もそういったエピソードをいくらか続けられてそれだけで私は寝込みそうなほど疲弊した。


でも寝込んでいる場合ではない。
彼のこの攻撃になんの意図があったのかついぞ不明だが、私は
それを止める権利は私にはないんだから、せめて童貞くらいくれてもいいじゃないか
と支離滅裂な反撃をした。


あとでこの通話内容を振り返れば、
意外というか、不思議な点がいくつかあったのだ。


いけると思ったらまた誘ってしまうかもしれないと言われたこと。
童貞じゃなかったとしたら自分とはしたくないのかとやたら聞かれたこと。
自分が童貞を捨てたいという気持ちより、私の気持ちを汲むような態度をとっていたこと。


もちろん彼も平静ではなかったし、とても混乱しているようだった。
私をいじめているとき以外はどうしようどうしようと騒いでは塞ぎ込み、また騒いで一人で悶々としていた。そして


明日は暇か、と彼は聞いた。


夜は暇だ、と答えた。



明日なら、いいよ


と彼は言った。