せいせいかつ日記

大きな声では言えないような話をします。

今日も釣り⑤

その日は結局、ほぼ一睡もできず、ただ先輩に愛でられて、気づいたら明るくなっていた。


手に触れ、肩を抱いて、顔をすり寄せて、そうやって甘ったるくじゃれているだけで朝になったのである。
ただただ緊張して、どきどきして、頭がいっぱいいっぱいで、
胸やけしそうなほど甘い夜だった。


先輩はというと、私が寝ないので先輩も全く眠っている様子がなく、
おそらく1ミリも休まっていないと思うのだが、そのような素振りも見せず、元気に朝を迎えていた。
もしかすると、先輩自身も予想外の展開にハイになっていたのかもしれない。


こういったことがあっても、その日は予定通り早朝から出かけて山遊びにいそしんでいたのだが、
さすがに距離感はほんの少し変わって思えた。
先輩からのスキンシップや、LINEが増えた気がしたし、仕事で顔を合わせたら妙に近づいてくるようになった。
逆に私は意識しすぎて変にすました態度しかとれなくなった。


そんな日々が続き、休みでは飽き足らず、仕事のあとに会おうなんて言ってるときに
ひょんなことからうちに来るという話が出た。
どういう流れだったかあまり覚えていない。
ただどちらともなくそういう話になったような気がする。


少なからず私は家に来てほしいなぁとぼんやり思っていた。
人に依存すると夜が急に空しく退屈になるものだ。
下心は正直ほとんどなかったが、添い寝はしてほしかったし、そのあと何か間違いがあってもそれはそれで良いような気がしていた。
それに前回のことを思えば、先輩は女が横で寝てるからといって、欲情したりしないのかもしれない、もしくはそうじゃない楽しみ方を知ってるのかもしれない
そんな風に思っていた。
先輩は自称硬派で、これまで多くの女性とお付き合いの経験はあって、それなりに女性の扱いも分かるけれども、不貞な行為に及んだことはないと話していた。
こうなっている今、何が不貞で何が硬派かよくは分からんが、要は付き合ってない女とセックスしたことはないみたいな話だろう。
私は見る目が壊滅的にないので、それが事実か否か見極められないが、あの夜のことを思えば、あるいはそうなのかもしれないと逆に思い始めていた。


これは信頼とかではなくて、先輩はそういう人間なのかもしれないなという解釈に過ぎない。
結局そんなことはどっちでもいいのである。


なんやかんやあって、うちに来ることになった。
ただ問答をして話をしてるうちにそういうことになったのだが、
あんなに軽口を叩きながらも先輩は私の家に足を踏み入れるのには若干の躊躇いがあったようで、
それだけはする気がなかった、本当に行くことになろうとは、などと直前までぶつぶつ言っていた。
それが何由来の躊躇だったのか、結局よくは分からない。
さすがに彼女を思ったのか、ここが不貞行為のラインだったのか。
無理に来る必要はないのだが、そういう言い方をすると、いや無理してない、悪いことはしてない、と話を逸らすのが先輩である。
結局上手いこと丸め込んでうちへ連れてきた。


家に来て、やはり変なテンションになった先輩は、またしても寝る気あるのかというほどはしゃいでいたが、そのうちおとなしくなった。
うちには遊べるようなものもテレビもないので案外暇だったらしい。
結局次の日私は仕事だったので、眠らせてもらうことにした。


普段私は6帖ほどしかない部屋に直置きしたシングルサイズのマットレスで寝ている。
人が来た時にはさすがに狭いので大抵そのマットレスに客を寝かして私はカーペットで寝た。
もしくはカーペットで並んで雑魚寝。
しかし先輩はさっさとマットレスに寝転がって手招きした。
狭くないですか?と抵抗したが
狭いほうが良くない?と言うので、
まぁ確かにと思って隣に失礼した。


めちゃめちゃ仲の良い友人でも狭いサイズだ。
そんなとこで先輩を寝かすのがまず申し訳なかった。
しかし先輩は早速私を腕の中へ引き寄せ、耳元に顔を寄せた。
まさかまたこうなるとは。いやなるか。
先輩はやっぱりハイな状態で、やけに騒々しく話をしたりふざけたりしていた。
しかし私が本気で寝ようという態度を見せたので少しずつ静かになった。


これはお互いそうだったと思うのだが、冷静になるとめちゃくちゃ寝づらかった。
まず空調がくそ過ぎてすごく暑い。私の睡眠時の体温が高すぎるためかもしれない。
しかも先輩が寒がりですこぶる相性が悪い。
私は暑がって布団も被らなかったが、先輩はタオルケットと羽毛布団を重ねて首まで被っていた。
しかし密着している私が異様に発熱するため、接着面だけ体温が上がり、寝苦しかったという。
そもそもだが、腕枕とはかなり厳しい体勢だ。
下敷きにしてる腕が気になって眠れやしない。
先輩は先輩でそういうときにやたら見栄をはるので、全く微動だにしない。
だが休まらず、眠りにもつけていないことは事実だった。
緊張と興奮で寝られないというのももちろんそうなのだが、そもそも安眠できる環境ではなかった。
先輩に悪いことをした。


そんなこんなでも結局密着したままだらだら朝になった。
何度か気絶するように眠りはしたものの、浅い淵を彷徨ってるだけで、どちらも相手の挙動で目が覚める。
何時間寝られたのか分からないが、まるで休まらないまま明るくなっていた。

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