せいせいかつ日記

大きな声では言えないような話をします。

詐欺②

その人も十分気が動転してるようだが、
それ以上に動転していたのは間違いなく私の方だ。


本当に?


今いいといったのか??


彼は
もういいよ、しよう!
という感じで一旦は吹っ切れた態度を見せ、そのあとまた
あ〜やめとこうかなぁ
というのを延々繰り返していた。


私はもうほとんど話が耳に入っていなかった。


心臓が口から出そうなほど脈打っていて、変な汗が出てきて、血が沸騰してるんじゃないかってほど体が熱かった。
顔が火照って冷静ではいられない。


これは夢か?本当にこんなことが起こって良いのか?


夜中だと言うのに叫びだしたくなるのを抑えて、とりあえず彼の行ったり来たりを見届けていた。


童貞を捨てるのに協力するというような話のはずが、私の熱烈な願望を聞いて気を良くしたのか
やりたいならやってやるよ
みたいなスタンスで物を言っていた。
でもそれもそのときは全く気にならなかった。


確かに童貞をほしいのは私。
彼の、童貞を捨てたいというお願いを、私が叶えてあげるわけではないのだ。
私がお願いしているのだ。


そもそもそのことに気づいたのも電話を切って、眠れないながらに無理やり就寝して
翌日彼氏に事の顛末を説明している最中だった。


私がお願いしたから機会をくれた…


この日は彼氏とデートしながら2人でずっと夜の話をしていた。


我ながら本当に面倒くさい性格なのだが
私はこのとき期待や興奮より不安が圧倒的に勝っていた。


前にも書いたが、本当にこんなことが起こるとは思っていなかった。


本当に初めての相手になれるなんて…


でも途中でつらくなって萎えさせてしまったらどうしよう?
私は別に何かすごいテクを持っているわけでもないけど、ちゃんと満足させられるのか?
私の顔を見て、あまりのブサイクさにやる気をなくしたりしないだろうか?


今まで何度も夢に見たことだが、
何度試みても私とその人がセックスをしているところなんて想像できなかったのだ。
絵が浮かばない。
彼がどんな言葉かけをしてくるのか、私が何を言えば喜んでくれるか、全く見当もつなかい。


最中の不安と同時に、その後のことも不安になってきた。
その人は高校の友達で、共通の知り合いも多い。
2人で会う以外にも顔を合わせる機会は少ないながらに年に数回はある。
そのときに変な空気になったりはしないだろうか。


これまでにも高校の頃の知り合いとそういうことをしたことはあるが、
ここまであれこれ考えたことはない。
話されて困るのはお互いだから、とバラされる心配もほとんどしてなかったし、顔を合わせても普通でいられる自信があった。


おそらくその人としても、その後ドギマギすることはないだろうが、やっぱりこれまでの人より近い存在だったので不安があった。


この日はずっっとこんなことばかり考えていて、彼氏には本当に申し訳ないけど、
彼は私が頭を抱えているところを楽しんで見てくれていた。
励ましてくれたり、煽ってくれたりした。
私達は運命共同体だ。


自分で自分がほんとにめんどくさい。
ずっと自分で押して、口説いてきたのにいざこうなったらどこまでも弱気でどこまでもネガティブだ。


彼氏とのデートも終えて家に帰って晩ごはんを食べたが、全く味がしなかった。
食欲が全くなかった。
でも違和感を察知されては困るし、このあとは友達の家に泊まりに行くことになっているので元気よく振る舞わないといけなかった。
すぐにでも箸を止めたいのを必死に堪えてすべてなんとか嚥下したところで部屋に籠もった。


逃げ出したかったし、手の震えが止まらなかった。
彼とやっとできるんだ、初めてになれるんだ
という喜びと
ヘマをやるんじゃないか、引かれたらどうしよう
という不安で頭がグチャグチャだった。


その人は夜まで出かけているらしく、私は時間を潰して待っていなければいけなかった。
しかし動悸と冷や汗で何も手につかなかった。
熱っぽい体を抱え込んで、少し眠った。


しばらくして目が覚めてもまだ時間には早かったので、
彼氏との公園デートに合わせて着ていた動きやすい服装から
自分なりに考えた女を出した服装に着替えた。
こういう部分は恥ずかしいからあんまり人に言うことではないかもしれないけれど。
それで気持ちを切り替えようとした。
結果的に不安は解消されなかったが
私から誘っておいて私がうだうだしてるのは相手に迷惑だ、というふうに気合を入れ直すことはできた。


程なくしてその人から連絡を受け、待ち合わせ場所に向かった。
ホテルに向かう前にお金を下ろして、お酒を買って、
特に中身のないことを言いながら自転車を漕いだ。


ホテルが空いているか心配だったか、目星をつけていたホテルに空室があって路頭に迷うことはなかった。 


部屋に着いて、なんとも言えない空気に耐えかねとりあえず酒をあける。
お腹が痛いというので帰るか?というと
帰っていいなら帰りたいと言われ
私がお願いしてここにいるんだなと再度実感した。


とりあえず酔わないとできないようだし、時間もあるからそこまで性急にならずともその場の流れでできればいいと思い、私はちびちび飲んでいたが
彼はその横ですごい勢いで飲んでおり、先に酔っぱらって私にもたれ掛かってきた。


酔ったら我慢できなくなるタイプなんだね、面白いねって私はケタケタ笑ってたけど、
彼はすでに朦朧としていて


私の首筋に顔を埋めた。


そのままそこにキスを落として、私を抱きしめた。


始まるんだ…、と処女のようなことを考えながら、私も首筋にキスをした。


彼はされるよりしたいタイプらしく、私がそういうことをすると反応してるのかしてないのかわからないくらいのタイミングでそれを払い除けて、私を攻める。


彼は次に耳をなめて
耳弱い?
と聞いた


相手は童貞だから、とかいう余裕はその人を前にしては全くなかったが、それ以上に私はされるがままだった。


耳舐めてみたかったのかな、と冷静に考えている自分と、ただ快感に困惑している自分とで既に分離しグチャグチャだった。


ずっと焦がれてた彼のその口で攻められてるんだということだけでいっぱいいっぱいだった。


だがこのあと


どっちの耳が弱い?


と囁かれたときに



違和感を覚え始めた。


童貞にしてはキザなセリフすぎないか?


それも童貞が背伸びをしてどこかで覚えたセリフを口にしているような気恥ずかしさは感じず、
日頃からそれを誰かに、私にしたように、囁いているのかと思えてしまうほど自然だった。


そのあと顔がすぐ近くにあって、


キスをした。


最初から舌が入ってきて、
私の口腔をなぞった。



キスは絶対初めてじゃないなと確信した。



それに合わせるように


ちなみに言うとキスは初めてじゃないよ



と彼は言った。

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