せいせいかつ日記

大きな声では言えないような話をします。

こないだのセックス②

結局来たことがないラブホテルに到着した。
自転車があればいつでも来れるくらいの距離で、地元のラブホで検索するといつもヒットするので気になってはいた。
ここも最初に予定していたとこと変わらないくらい格安なので満室の可能性は十分にあると思ったが、意外にも3部屋くらい空いていた。
一階のロビーがなんともラブホテルぽくないというか、なんだか物や装飾が多くて薄暗くて変に派手だった。
部屋の空きがボタン式のパネルで確認できるところはラブホテルそのものだ。
部屋を選択して料金を払ったあとは鍵もカードも何も渡されることなく上へ案内された。
3人ほど入ったらもうきつきつなんじゃないかという狭さのエレベーターに乗って私達は上の階を目指した。


室内はというと、
大きなベッドと化粧台とソファ、それから小型のテレビが所狭しと並んでいてそれで部屋の余白はないくらいの広さ。
なんだかよく分からない絵が額縁に入れられて2枚ほど壁に掛かっている他、開いた穴をキャラクターのシールで覆っているなど、世界観の分からないデザインの部屋だった。
風呂は2人で入るには狭いなというサイズで、トイレとは別々だった。
なんにしろベッドさえあればセックスをするには十分なのである。


彼と私はとりあえず部屋の隅に置かれているソファに座って、DVDを見ることにした。
これは私が彼からずっと借りっぱなしだった、アーティストのライブ映像だ。
一通りやることをやってから見るのかと思っていたら彼がおもむろにセットしだしたので私はその意向に従った。
とはいえラブホテルの一室で2時間も何もせずにいられるとは思っていない。
あえてそれは黙っておいて、買ってきた酒をあけた。
もうお酒の力はいらないだろうと思うのだが、彼が買おうと言うのでそれにも従ってあらかじめ行く道で買っておいたのだ。
度数9%の缶チューハイをちびちび飲みながら好きなアーティストのライブ映像を並んで見る。
ある意味至極の時間である。
何もせずに寝ることはないだろうし、集合も早かったので私は特に焦らず彼が気の済むまで映像を見ていることにした。


最初こそ映像の話をしたり、ふたりで歌ったりしていたのが、
彼が手や脚を絡めてきたり、腰に手を回してきたりするのでなんとなく集中できなくなった。
しまいには耳や首筋を手でくすぐってきたり、そっとキスされたりして映像どころではない。
それを見計らってというよりは彼のタイミングだったが、結局彼は
あとで見よっか
と言って映像を止めた。


抱きしめられて、耳にキスをされる。
それから口と口でずいぶん長いことキスをしていた。
彼は前回と打って変わって、キスを焦らしたり意地悪なことを言ったりはあまりしないで、おそらく本人のやりたいようにキスをたくさんしてくれた。
焦らしたほうが良いか、どんなキスが好きなのか、など少し前に会ったときにいろいろ話したりした。
それを参考に改良してくれたのだろうか。
彼の中で正解や、流儀というのは確立していない気がした。
セックスは対人のものだからこれが正解というのはないのかもしれないが。


そうしていると、彼がやってみたいことがある、と言って
チョコレートを取り出した。
それを一欠片口に含んで、そのままキスをした。


チョコが彼と私の口の中を行ったり来たりする。
口内の体温と舌の動きで甘いチョコがとろとろになっていく。
それを味わいながら、チョコ味の彼の舌を絡め取った。
甘い。
彼がそういったことを提案してくるのも意外だったし、経験のないことなので私は言われるがままだった。
チョコと一緒にお互いの口も溶けて混ざるような気がしてすごく艶めかしい。
私は陶酔感のようなものをに浮かされて、ただ甘さだけを感じながらキスをしていたが、
彼は照れが勝ったらしく、
恥ずかしいと言っていた。
お前がやり出したんだぞ。

こないだのセックス①

例の彼に夜中に呼び出されてのこのこ会いに行ってから数日。
(その日は公園でいちゃこいて帰った)


その日はあっけなく帰った上にLINEでも対して何も言ってなかったのに、しばらくしてから
夜中に出かけたりして親に怒られなかったか?
と心配された。
彼が何を考えてるか全く分からない。


童貞であると嘘をつかれていたこと、偽ったままセックスしようとしたこと。
その日のことを思い出せば未だにトラウマとして沸々と蘇る。
だけど彼に今すぐ距離を置かれることより、都合良く利用されて使い捨てられる方がまだマシに思えていた。
とは言いながらいずれ捨てられることなど受け入れられていないのだけれど。
それほどに彼に執着していて、精神が異常なのだった。
彼とセックスした二番目の女だって別に良いじゃないか。二番目は二番目で良いじゃないか…


ともあれ彼のLINEはほんとに情緒不安定なのかと思うくらい浮き沈みが激しかった。
返事をかえしてくれるかも気分次第という感じで未読無視されていたり既読無視されていたり。
返ってきてもすごくあたり障りのないようなことだったり。
最初は気になったがだんだんそれも慣れてきた。
そうは言っても彼が何を考えているか全然分からないのはいつまでも不安で、せめて会った日は楽しかったとか、そういう言葉は欲しかった。
その日はやたら私の心配をしてくれていて、しおらしくなっていたのを良いことに私はその旨を話してみた。
もっと言葉がほしい、
気持ちを教えてくれたら私は嬉しいのだと。
すると彼は案外素直にもそれを了承してくれた(言葉の上だけかもしれないけど)。
そしてこう続けた。


近いうちにやろね
と。
本当に上手く利用されてるのだろうけど、私はその言葉が出てきただけでも嬉しかった。
また会える。


すぐ予定を決める流れになって、私は直近の週末を指定した。
予定があるらしく少し渋っていたけど、無理をして来てくれることになった。
彼もそれなりに飢えていたのだろう。
性欲には抗えないというわけだ。
シメシメ。


しかもいつもなら最低限の時間しか割いてくれず、明らかに遅い集合時間にされるところを今回は早めに声をかけると言ってくれた。


それが決まったのが週末目前だったので、その日はすぐに来た。


時間付近になって彼から
自転車を別の駅に置いてきたのを忘れていた
と連絡が入った。
しかしそのときには私はもう待ち合わせていた駅に着いていたので、彼もそこに来て歩いていくことになった。
ラブホテルは徒歩で十分に行ける距離にあった。


彼とほんの少しの夜の散歩だ。
それはそれで楽しいな、と彼の顔を見たときに思った私だったが、
予定していたラブホテルが満室だったためにこの夜の散歩は「ほんの少し」ではなくなり、めちゃめちゃがっつり歩いて別のラブホテルに向かうことになったのであった。
まあそれはそれで楽しいのだが。


彼の失態であるにも関わらず彼はぶつぶつ言いながら歩いていた。
私はというと、
多分ラブホテルに着いたらただ駄弁るという時間はそんなにない気がしていたので、彼と話すだけの時間と、彼と身体を触れ合わせる時間の両方を得られてラッキーだと思っていた。
週末の夜に彼と2人、のんびり散歩。
贅沢な時間だ。


それなりに言葉を交わしているうちに思ったより早く目的地あたりに着いた。
彼は話している最中にも疲れたと私に肩を擦り寄せてきたり、信号待ちでくっついてきたりしていて、程よく焦れているように感じた。
ヤれると思って来てみたら散歩することになったのだから当然なのか。
今日、髪さらさらじゃない?
と私の髪に触れてきたあたりで私も煽られたりした。
ちょろいな自分。
だけど生理明けなのもあって、私もムラムラしてたのである。
セックス解禁日なのだ。

慰み 完結

体触っていい?
彼がそう聞くので私は頷く。


それを合図にそっと抱きしめられキスされた。
首筋や耳にもキスされているうちに体から締め付け感がなくなった。


え、今ブラとったの?


うん。


マジで全然気づかなかった。
片手しか背中に回ってなかったしまだ服も着てるしそんな動きをしてるように感じなかったのに。
私が気を取られてたのもあるだろうけど手際が良すぎて笑ってしまった。
姉がいるから下着の形状は分かるし…
というようなことを言っていた。
見て知ってたら誰でもこんなに早くとれるものなのか。面白い。


服の下に手が入ってきて胸に優しくあてがわれた。
彼氏以外が触ってる……
不思議な感覚だけどあまり不快感はなかった。
手探りで見つけた先端を指で弄ぶ。
服がまくられ露出したそれを舌で転がされる。
友人の元彼。
付き合ってるときはこんなこと全く想像しなかった。
人生何があるかわかんねぇな、というようなことをこの日何回か考えさせられた。


八重歯で噛まれて強い痛みを稀に感じる以外はすごく良かった。
そのあとも体の至るところをやたら舐められたが、
舌使いが上手いのか私が興奮しすぎていたのか、特に性感帯とも思えないとこを舌が這っていくだけでぞくぞくした。
彼は私が嬌声を漏らす度に
可愛いね
と言ってにこにこしていた。
普段話すときの声はもう少し落ち着いているようで、意外だったらしい。
自分ではいつもの声もこういうときの声も意識していないし意識的に変えているわけでもないので、少し恥ずかしくなった。
あざとく聞こえているのだろうか。
とにかくも彼は私の声を気に入ってくれたようだった。
声フェチなのだと付け加えていた。


彼の手が太ももに伸びてきて、脚の付け根をそっとさすった。
触れられた周辺を意識してしまってどきどきする。
この日は短パンを穿いていた。
指はズボンを掻き分け下着を横にずらし、さらには肉も掻き分け私の中に侵入してきた。
こういう風に脱がされることなく隙間から入り込んで触れられることが今までほぼなかったので、それにも興奮した。
不意に友人が、
彼は全然脱がそうとしないから着エロが好きなんじゃないか
という話をしていたのを思い出した。
あとで聞いたら実際そういうわけではないらしいのだが、
脱がさずに事を進める術に特化してるというのも面白すぎるだろ。


指がゆるゆると中で動く。
焦らしているわけではなくてずっとそんな感じだった。
でも絶妙に気持ちいいところを擦られてて、静かに溶かされていくようだ。
私が激しくされるのが好きだと公言するより前から、彼氏は割と指を大きく使うタイプなのでこれは初めての責められ方だった。
そもそも(私は気持ちいいと感じているけど)がしがし動かすのはAVの世界だけだとか言われているくらいだし、これがほんとの手マンなのか!?とか思って楽しくなってしまった。
とはいえ実のところは
彼氏とこの人を足して2で割れば完璧だなというのが最終結論である。


彼は元カノをイカせたこともあるらしいので、私の体質がちゃんと出来上がっていればイケたのかもしれないけど、
しばらくされるがままになっていてもイくというような気配はなかったので、イッたフリをした。
こういう場面で軽率にフリをして済ませるのは良くないのだろうといつも思うのだが、その予兆もなくただ自分がよがっているだけという状態が長く続くと
そろそろ向こうは退屈なんじゃないだろうか、
早く終われと思われていないだろうか、
手が疲れてきたのではないだろうか、
などとあれこれ考えてしまうのである。
そういう思考に陥ったらドツボで、焦燥感により余計に絶頂が遠ざかるのだった。
しかもイクふりは存外気づかれないものである。


彼はまた優しく抱きしめてくれた。
一貫して優しく、とても大切に扱ってくれた。
私に欲情してくれているのもすごく伝わったし、私を満足させようとしてくれてるのも分かった。
この機会をすごく貴重だと捉えてくれていたようだ。


このあと用意してくれていたお菓子を食べて、猫と戯れたりしながら彼の部屋で過ごした。その間も時折私をじっと見て不意にキスをした。
なんとも言えない充足感がある一日だった。
この地を経つ彼の新生活の始まりが、連れ添った彼女に振られた絶望ではなく、僅かながらでも前向きなものになるような一日になっていれば本望だと思った。

慰み③

彼の家のあたりまでなんとか辿り着いて一報入れると迎えに来てくれた。
彼が地方へ旅立つ前日のことだった。


最後に過ごすのが私でいいのか?
などとからかったりしてみたが、彼は笑ってるだけだった。


玄関入って手前に彼の部屋があって、廊下を進んだ奥にリビングがあるらしい。
リビングには親御さんがいるようだがぼそぼそ彼の部屋で話をしているぶんには問題ないということだった。
それからしばらくは大学の話や、高校の話、これまでの話をした。
彼と2人でゆっくり話をするという機会も高校生活のうちに1、2回あるかなかったか程度だし、
ましてや彼の部屋に友人ではなく私がお邪魔しているのも考えてみればシュールな気がした。


それからしばらく雑談したあとに彼が
傷、見る?
と聞いてきた。
純粋に興味があったので素直に見せてもらった。
彼は服をまくって胸板を露出させた。


近くで見ると縫い口が隆起しているのがよく分かる。
よく見れば私が思っていたより長くメスが通っていた。
これから先、この傷が綺麗さっぱりなくなって、なめらかな皮膚と同化するということはおそらくないのだろう。
手術をしてから何年も経って、体は大きく肉体は鍛えられているのに、胸には確かに異形が巣食っている。


これこれ。
これが見たかった。


傷を愛おしく眺め、感嘆の声を漏らす私を彼は優しく見守っていた。
触っていいよと言われたので、遠慮なくそっと触れてみる。
これほどのを直に触ったのは初めてかもしれない。
私のテンションは最高潮に達していた。
彼はときおりくすぐったそうにしていたけど、なんだか楽しそうだった。
挙げ句に
舐めてほしい
と言い出した。


こういうこともあるんじゃないかと思っていたのでなんの驚きもなかった。
傷を舐められる機会なんて早々ないしな!
頼んできたことにも満足して、私は言う通りにした。


傷に舌を這わせたときに彼が息を飲むのが分かった。
体はすごく熱い。
そのまま傷だけでなく体にも舌を伸ばしてみると彼が声を抑えるように息をはいた。
なかなか良い反応だ。
私は調子に乗って首筋あたりにも唇を押し当てた。
彼女はこういうことはあんまりしてくれなかった、
と彼は言う。
やはり彼女は傷が怖かったらしい。
またこういうことに対して積極的でもなかったようだ。
前の女を上回るということの優越感みたいなのを初めて感じた。


そんなことを続けていると、
彼の顔が近づいてきてキスをした。
舌を絡め返すと、
積極的だね
と言って嬉しそうに笑った。
キスをしたり体に触れてみたり、舐めてみたり
そういうことをやっていると、彼は罰が悪そうな顔をして
下も触ってもらっていい…?
と言ってきた。
彼のはもうズボン越しにも分かるほど膨れ上がっていた。


こっちも見せてもらえるのか、ラッキーだな、
くらいの気持ちで私はベルトを外してズボンのチャックを下ろした。
すごく熱い。
そのままズボンを剥いで、下着の上から撫で回してみると、
彼が吐息を漏らして、体を震わせた。
しばらく撫でたあと、下着も脱がせて実物と対面した。


長さは平均くらいだが、亀頭が異常に大きい。
カリの段差がすごい。
かなり太いような気がした。


軽く触れて、手を上下にゆるゆる滑らせるだけで彼は満足していたようだけど、
私はこれをどうしても口に入れたくなった。
彼の許可も取らず顔を近づけると、
え!さすがにそこまでしなくていいよ
と慌てた。
しかし抵抗されることもなかったのでそのまま舌を這わせてみる。
彼女はこういうことはしてくれた?
聞きながらゆっくり口に含むと、彼はそれだけで身悶えた。
ときどきしてくれたよ、
と必死に答えていたけど、私は知っている。
こんなに奥まで咥えこまれたことないでしょ、
できないって言ってたもん。


彼は私がすること全てに驚いていた。
思わず笑みが溢れてしまうほど。
いつもは先っぽを可愛らしく咥えたりちろちろ舐めていただけだったらしい。
彼女もしたがらないし、彼自身も彼女にそこまでさせる気はなかったので特に不満もなかったという。
そんなんはフェラじゃねぇ卍


彼があまりにも良い反応をするので、
私は調子に乗って裏筋を舐めたり奥まで咥えて吸い上げたりした。
音はあまり立てると親御さんにバレるかもしれないので控えめに。
そのまま手も使いながら続けているうちに彼は口の中で達した。
イク前に私を引き剥がそうとしたけど拒否した。
ごめん、
そう言って彼は口に含んだものを吐き出すためのティッシュを取ろうと腰を浮かしかけたが、
それよりも前に胃に流し込んでしまっていたので意味がなかった。
飲み込まれるのも初めてだったらしく、これにはむしろ心配までしてくれたが、
私からしてみれば出すほうがもったいない気がするのだった。


彼女には何をさせるのも申し訳なかったけど、yukiは楽しそうにしてくれるから良いね。
彼は嬉しそうに笑った。

慰み②

大学の合否が出た後、彼女は私に連絡してきた。
その頃私の方の合否は既に出ていて、いち早く春休みを満喫しているところだった。


彼女はめでたく志望校に合格した。
長い受験期がここで終わったのだ。
一息ついたところで近いうちに会う約束を取り付けた。


彼女の彼とのやり取りはポツポツ不定期ながらに続いていた。
彼女が受験を終えた今、私はお役御免だろうと思い、あえてこちらから連絡をするということもなかった。


しかし数日経ち、彼の方から連絡があった。
「彼女は大学に合格したのだろうか?」
と。
前期で決まらなければ中期、後期が控えている。
不合格だとすれば言いづらくて連絡してこないということも十分に考えられる。
彼からは彼女に聞くことができなかったのだろう。
私から伝えて良いものかと思ったが、彼の催促に負けて結果を伝えると、当人かというくらいの歓喜ぶりだった。


こんなに彼女を心待ちにしていた彼に友人はなぜ伝えていないのだろう。
許可もなく結果を伝えてしまった後ろめたさもあったので、すぐに友人に連絡して謝罪したあとに理由を聞いてみた。


要約すれば
受験で燃え尽きていて彼氏のことを考える余裕がないとのこと。
まぁそういうこともあるのか…?
私はいまいちピンときていないなりに彼女の言うことをなんとか咀嚼した。
彼氏が随分不憫だが、こればかりは時間の問題だろう。
そう結論づけていたが、事はそう簡単でもなかった。


友人に会って久々にゆっくり話したが、彼女の心境はなかなか拗れていた。
受験期、さらにはそれ以前から積もり積もっていたものが、受験という重圧の解放と共に爆発していた。
彼のことで時間を割きたくない、と彼女は言った。
自分のために時間を使いたいと。
彼と過ごす時間はもう自分のためのものではないのだ。
またよく聞けば、彼の受験態度にも納得がいかず、本人が妥協して地方に行くことにも苛立ちを感じているようだった。
そんなこと言ってやるなよと私は思ってしまうが、
一番近くで彼を見てきた彼女にはいろいろ思うところがあるのだろう。
さらに言えば、こんな心境では遠距離恋愛になることへの覚悟もへったくれもないのだった。
私は時間の問題などと悠長なことを考えていたが、彼女の中ではいつ別れを告げるかというところまで話が進んでいた。
確かに好きでもない男にいつまでも恋人面をされてはたまらないという主張も分かるが…


結局このときは結論を慌てて出さなくてもと宥めておいたが、私の言葉を聞いているようには見えなかった。


それからしばらくして2人は別れた。
彼女が彼に手紙で切り出したらしい。
その後の彼女の対応は酷いもので、別れを告げたのを良いことに彼からの連絡をすべて無視し、SNSのつながりを断った。


友人を近くで見ていた私には彼女の思うところが分からなくもなかったし、彼女が全て悪いとはとても言えなかった。
別れることこそが時間の問題であったのかもしれない。
しかし、それにしてもあまりに酷いのではないか…?
彼は待っていたのに…


彼の肩を持つつもりは毛頭ない。
仲を取り持つなんていう思い上がったことをする気もない。
とはいえ彼を可哀想だと思った。


彼は当然ながら落ち込んだし、発狂したし、自暴自棄のような発言をしたりした。
なにせ3年は付き合っていた彼女に理由も不明瞭なまま別れを告げられたのだから。
ついこの間までの無邪気な彼はどこへやらだった。


そこからの流れは実はあまり覚えていない。
彼を励まそうと慰めの言葉をかけたり、話を変えたりして過ごしたような気がする。


そのときに彼の手術痕の話になった。


彼の胸には幼少期の手術でついた生々しい切り傷がある。
これは水泳の授業でも何度か見たことがあるし、彼女の話にもごく稀に出てきた。
彼女はこれがあまり得意ではなかったようだった。
手術の影響なのか、彼の心臓部を間近で見ると脈打つ鼓動に合わせて皮膚ごと動くらしい。
切り口は隆起し、今は異質な皮膚となって彼の胸に張り付いている。
この話をするときの彼女の顔はどことなく引きつっていたものだ。
一方の私には、傷痕フェチという相手の顔をさらに歪ませる性癖があった。
傷痕フェチと言っても生傷は違う。傷を増やす趣味もない。
まさに彼にあるような、いつだったか分からないくらい前にできた今は痛くもなんともない傷「痕」が好きなのだ。
すごく神秘的なものに見える。
人間の生命力が時間をかけて塞いだ痕。
しかしどう見てもそれ以外の部位とは違う、異質で異様な痕。
悪趣味と言われるが、これを見たり、触れたりするのが好きなのだった。
どういう流れか、私はこの話を傷跡を持った本人に話した。


すると彼は
見てみるか?
というようなことを言って写真を送ってきた。
なんとなく乗り気な感じだった。
私は気を良くして
いいなぁ、触りたいなぁ
みたいなことを言った。
そんなやり取りをしているうちに、どういうわけか私は彼の家に行くことになったのである。


先に言っておくと、
これからの一連の出来事について友人に申し訳無さや後ろめたさは
正直感じていない。
ただし、彼女にこの話をする日は生涯来ない。
墓まで持っていく所存である。