せいせいかつ日記

大きな声では言えないような話をします。

今日も釣り④

夜のうちから集まっておけば、朝もより早く出かけられるという話。
より長く一日が楽しめると先輩は言った。
先輩の朝はいつも早くて集合時間も部活より少しゆっくり程度の時間なので、
ならもう先集まってるほうが楽かなと私も思った。


先輩のあまりの無邪気な様子に、男性と一夜を共にするみたいな危機感もまるで湧かなかったし、考えつきもしなかった。
先輩自身、その提案が聞き入れられるとは思ってなかったらしく、やけに楽しそうだったのが印象的だった。


先輩の家、と言っても普段の住まいではない、簡単にいうと別荘みたいなところは
車で1時間ほど移動したところにあって、随分山奥だ。
電気は通ってるが風呂はない。水は出るがトイレは流れない。
なんかそんな感じだ。
花火をしたり散歩をしたりなんやして、日付が変わるくらいまで遊んだ後は、
蚊帳の中で寝ることになった。
2人がちょうど横に並んで寝られるくらいのサイズ感だった。


寝るのも惜しくてしばらく話してたけど、夜も更けてきてそろそろ寝ようと電気を消したときに
私は急に緊張してきた。
何か起こるというような予感はこのときも全くなかった。
ただ、先輩が横で寝てるということが信じられなかった。
こんなことしてていいのか?という罪悪感もこのときになってようやく出て来て、
急に頭が冴えてしまった。
先輩はなんだかずっとはしゃいでいて、なんなら朝まで起きてる気なのかというくらい騒いでいたのだが、
私が目をつむって瞑想してると、頬に手を触れてきた。



そこから細かいことは覚えてないが、気づいたら私は先輩に腕枕してもらって寝ていた。
覚えてない中にやらしいことが割愛されているわけではない。
結論から言ってそうったことは何もなかった。
だが、ただお互い横に並んで伸びて寝るだけだと想定したところからははるかに逸脱して、
私は先輩と0距離で眠ることとなったのだ。


緊張して眠れない、という私を面白がって、先輩は頬や頭を撫で、腕を差し出してきた。
腕枕で眠るなんて恐れ多くてできません、という私をなだめ、引き寄せ、結局乗せられてしまった。
心臓がばくばくして、先輩が近すぎて全く眠れないというのに、
それを逆に煽って、より近づいてきた。
挙句には抱き寄せられて先輩の腕の中で眠ることになってしまった。
無理です、やめてくださいと逃げても、背を向けても追いかけてきて抱きしめられてしまう。
頭が馬鹿になって溶けていくのが分かった。


ただ先輩として、友人として、朝に備えて眠るだけなら、そういうこともあるでしょと開き直れたかもしれないが、
これはさすがに、良くない、夜だった。

今日も釣り③

先輩と休みが重なるのは月に1日、多くて2日くらいなもんだった。


重なったタイミングで出かけるというだけで最初は十分だったが、
やりたいことも気持ちも膨らんできて、それだけでは物足りなくなってきた。


いまだに好きだの付き合いたいだのと言語化するといまいちピンとこないが、
依存が始まっていることだけは感じ取っていた。
時間をかけて知っていった間柄で、気も合って、一緒にいると楽しい。
これは事実なので、お互い寂しさを埋めてくれりゃ誰でも良い、という事情でつるんでいるわけではないだろう。


しかしお互いでないといけないのかは分からない。
しかもなんなら相手には彼女がいる。
私の思う彼氏彼女像と先輩と彼女の現状は乖離しているため、もしかしたらそれは本当に先輩の言う通り、形だけの意味のない状態なのかもしれない。
そこに依存関係すらなくなりつつあるのかもしれない。
でも彼女は彼女で、私は彼女じゃないのだ。
1番になることは今後もないのだ。
というか私がそんなことを言い出せば、それは浮気になるし、不倫になるし、略奪だなんだとややこしいことに首を突っ込むことになる。
そんなことをしてまで私は先輩の1番になりたい!とは思わなかった。
だってこの状況を作り出してる時点でクズだし。
もし付き合えたとしてもこんな扱いを受ける可能性があるってことでしょ。


しかし依存は付き合いたいかには関係のないところにある欲求だ。
1人の時間がひどく退屈に思えて、返信の来ない時間が異常に長く感じた。
会える日が少ないと絶望したし、先輩の動向が気になった。


そして幸か不幸か先輩も若干私に依存しつつあった。
いや依存と呼べるかは分からない。
感覚としては小学校のときに毎日遊んでた友達に対しての気持ちと同じような感じだと思う。
次何しようか?次はいつ遊べるのか?
いつも一緒なのに急に風邪なんか引いて休まれたらその日どうやって過ごして良いか分からない。
なんかそんな感じ。
暇だと思ったら私に連絡する。やりたいことが思いついたら私に言う。
会いたいと思ったら会いに行く。


遊べる日が少なすぎるとはお互い感じていた。
なんとか時間を長くできないものかと。
そう考えているうちに、遊ぶ約束の前の日から泊りがけにすれば良いのではという話になった。

今日も釣り②

余談か本題か
先輩と彼女は上手くいっていない。


先輩はかなり怒りの沸点の低い人で、彼女さんの少し抜けたところがどうにも気に食わないらしく、店でも雰囲気を損ねるくらい喧嘩をしていた。
先輩の口調が妙に説教じみており、彼女の言い分を聞き入れないもんだから、
そのうちモラハラ男だなんだと陰では言われていた。
彼女の天然ぽいところは、可愛くもあるが察しの悪さでもあって、それを寛容に受け止められないとなると相性は最悪だろう。
そんな2人がなんで付き合い出したかと言えば、それこそ休みの日に2人で出かけるようになって、彼女が猛アタックしたからだそうだ。
実際は、彼女は先輩が自分に好意を持っていると確信して、告白をしたそうだが、
先輩にはそんな気さらさらなく、何度断っても粘ってくるのでお付き合いしてみることにしたという。
とはいえそれは先輩から聞いた話なので実際のところどうだったのか分からない。
彼女がいうには先輩は最初はすごく優しかったらしいし、いざ付き合うと親に合わせたりいちゃいちゃしたりもしてたそうだから、
成り行きで付き合って感情もないまま過ごしてるわけではないのだろう。
ただ、コミュニケーションが上手くいかず、お互い不満を強く抱えていて、
しかしもう話し合う気もなくて、自然と距離があいてしまっているというのは確からしかった。


私は恋愛話が好きなのもあったし、自分の立ち位置を明らかにしたくて
よく先輩に彼女のことを聞いたのだが、決まって悪口しか出てこない。
話していてもつまらない、付き合いきれない、人間性が受け入れられない
などおよそ彼女の話とは思えないような壮絶さで、フォローも追いつかないほどだ。
これが友達の話なら、さっさと別れなよ、なんで付き合ってんの?とはっきり言えたが
こういった話をするようになったときには、私と先輩は2人で出かけるようになっていたし、微妙な間柄だった。
そんな状態の私がいう「早く別れなよ」には、ただ相性の悪い女に時間を浪費するなという意味合いとは別の意図が内包されてしまう気がして、言えなかった。


実際別に別れてほしいなんて思ってない。
ただその話を聞いて純粋にそう感じるだけだ。
だけど別れても本当にそのままただの先輩か?と言われるとそうは言い切れなくて
そんな煮え切らない気持ちで別れたら?なんて軽はずみには言えなかった。
しかし、先輩はそのうち、自分はもはやフリーみたいなもんだと言い始めた。
あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて腹も立たん最低なセリフだけど、
ようは彼女とは全く会ってもなくて連絡もとってなくて寂しいということだったのだと思う。
彼女は毎休み腹痛か頭痛をおこして家に引きこもってるらしく外で走り回りたい先輩とはなかなかゆっくり過ごせてなかった。
LINEもほとんどしてないと彼女も言っており、2人にとっての付き合う形がなんなのか私には分からなかったが、2人にとってもそれはベストではないようだった。
ただもう疲れてしまっていて、努力したりすり合わせたりする気も起きない状態。


先輩は寂しくて、多少投げやりになって、責任転嫁をしているのだ。
自分に構ってくれない彼女に対して拗ねているだけ。
そう思うと、微笑ましく、何も大したことないじゃないかと思う反面、
じゃあ私は当て馬か、と少し胸にもやがかかった。


それからしばらく同じような話をすることが何度かあったが、あまりにも悪口しか言わないので、本当に愛はないのだなという気がしてきた。
しかし関係を切りたいと思っているだの相性が悪いだの、このまま続ける未来は見えないだの言っても
結局のところ別れないのだ。
別れ話とは精神力もいるしストレスもかかる。
何かを爆発させたついでにそれを着火剤にするのが一番てっとり早いが
こういった特に何もないがもう何もしたくない、みたいな状態は着火剤にはならない。
人は静かな水面には波を立てたくないもので、お互いが身動きを取らず、じっとしてることでやり過ごしてしまう。
先輩も彼女もそうだ。
お互い、相手が悪いと確信している。相手が変わることを望んでる。
相手が変われば一緒にいてやっても良いけど、みたいな気持ちがあるのだろう。
何も全てを嫌いなわけじゃない。
すごく分かるし、好きにしてくれたらいいし、早いこと別れを決断することが2人の幸せとも別に思わない。
けど私はそこに居合わせるのがだんだんしんどくなってきた。


何故割り切って後輩として過ごせないのか?
何故先輩は私に自分は独り身だというのか?
何故私はこんなにもやもやするのか?


これが好きということなのか、と知覚して、受け入れられるほど
馬鹿になり切れないまま時間だけが過ぎた。

今日も釣り①

職場の先輩と寝てしまった。



そんなつもりなかった、ほど説得力がなく、想像力のない言い訳はこの世にないと思うのだが、
それを心の底から思う日が来るとは思わなかった。



今の仕事について1年と半年。
職場の人たちともなんとなく打ち解け、休みの日に遊びに行くようなことも増えた。
これまでずっと実家から2時間くらいかけて通勤していたわけだが
つい数か月ほど前に勤務先の近所に越してきて時間ができたこともきっかけかもしれない。
また彼氏と別れて暇になった、というのも少なからずあるだろう。


仲良くしてもらってるスタッフの中でもとりわけ気の合う男の先輩がいる。
担当している仕事も近しいので話す機会も多く、感覚も近かかったし
よくよく話してみると趣味も似てることが分かってかなり盛り上がった。


その先輩は私がここで働き始める少し前から同じ店舗内のスタッフと付き合っており、
入社直後からそれは知らされていた。
そのころには私にも彼がいたし、そもそも人のものに全く興味なんてないので、
本当にただ、優しい先輩というだけだった。
またしばらくは休みの日に出かけようなんていう発想もなく、ただ店で顔を合わせるだけだったのだが
向こうの熱烈な誘いで、一緒にアウトドアな趣味に興じることになる。


熱烈な誘いで、なんていうと怒られるかもしれない。
その話題が出たときに、面白そうですね、私もやってみたいです、なんて適当な相槌を打っていたために、
私がめちゃくちゃ興味を持っている、ということになって、決行の運びとなったためだ。
実際興味はあったし、やってみたさはあったんだけども、先輩のその熱には遠く及ばない。


彼女もどうやらその趣味には付き合わされているらしく、
休みの日には何かにつけて出かけることになるらしかった。
彼女ももちろん楽しんでいる側面はあるのだろうが、やはり先輩の押しの強さゆえなので、付き合わされている感は否めない。


最初は3人で行くという約束にしていた。
3人でできることなのだから3人でやればいいし、先輩と2人で出かけるつもりもなかったので至極当然のことだ。
だが、店の人員体制上、好きなタイミングで3人同時に休みを取るのは思った以上に困難だった。
その予定が持ち上がったときから、2,3か月、店長が頭を抱えて作ったシフトを3人で眺めていたが、
3人休みが重なるなんていう奇跡は起こらなかった。


先輩は焦れていた。
行くには良い時期があるらしく(よく聞けば都合が悪いのは冬くらいらしいが)3人での休みを待っていては時期を逃すというようなことを言い出した。
3人重なることはなくとも2人重なることはある。
彼女のおる男と二人で出かけてええんかいなとしばらく悩んだが、
彼女が思いがけずあっさり了承し、むしろ背中を押してくれたので、行ってみることにした。


その後何度かその趣味に興じて、朝から晩まで遊んでいたのだが、
それ以外にもやりたいことや行きたい場所が出てきた。
山に一日こもってるのと、ドライブをするのは違う。
オシャレなカフェや景色の良いところにくり出すのも違う。
違うということは私にもわかる。
だってそうなってくるとデートやん。


でも先輩も彼女も別に構わないと言った。
2人でそういったところに出かけて来ても良いらしい。
私はかなりやきもち焼きなのでその感覚が全く分からないのだが、2人が良いならもう良いやと思い、出かけることにした。
2人で出かけること自体が合法化したのだ。


そこから何度も先輩とは出かけた。
OKを出した彼女も、まさか休みが重なる度にそういったことになるなんて予想せずに
軽い寛容な気持ちで了承したのだろうし、
毎度、どこどこ行ってきました~!なんて報告を入れる無神経をやれる自信もなかったため、
事前に伝えて許可をとる、なんていうことをだんだんしなくなっていった。
本当は後ろめたさも少しあったのだと思う。
私は先輩に恋愛感情はなかったし、先輩もそうだろうとは思うけど、
これは明らかにデートで、明らかにお互いなんらかの好意はあった。
当然やらしいことやら浮気な出来事は起こらなかったしその気にもならなかったけど、
彼女が仕事に行ってるその日に、彼女の及び知らないところで、朝から晩まで遊びまわって、楽しく過ごしているということになんとなく申し訳なさを感じた。
気にする必要はない、何も悪いことはしてないといつも言い切る先輩も
彼女に休みの日何をしていたか聞かれてはっきり答えないようになっていた。
先輩も馬鹿じゃないから、そのまま伝えることで具合の悪いことが出てくる可能性を感じていたのだろう。


一方で私は馬鹿なので、恋愛感情こそないが、このままいけば先輩を好きになるんじゃないかという気がしていた。
私に限ったことなのか統計をとったこともないので分からないが、
やはり隣の席の異性とは急接近するし部活の先輩はかっこいいし近所のあいつは気になるもんだ。
それと同じで、いつしか毎日LINEをして、シフトが出るたび2人の休みを確認して、どこ行こうかなんてきゃっきゃしてるうちに、
なんとなくただの先輩ではなく思えてきた。
彼女と別れてほしいとか、自分が付き合えたら良いのに!とかそんな明確な気持ちはこれっぽちもなかったが、
先輩の優しさやら、言葉やら、過ごした時間やらをぼんやり考えていると、
これが積もれば、気持ちもより重くなっていくだろうということをなんとなく感じていた。


しかしそんな気はなかったのである。

社会人③

入社したばかりの4月。
私がリモートワークで彼は仕事が比較的早く終わる日に約束をした。
お互い次の日が休みだったので久々の泊まりかな?と思ったが
家で休みたいというのでそれはなくなった。
昔はゆっくり遊んでたのに、会うほどに用意されている時間が短くなる。
まぁそんなことを嘆いていても仕方ないが。


彼のほうが先に仕事を終え、なんなら家に帰るくらいの時間があったようだが
私がスーツフェチなのに配慮してそのまま待ってくれていたらしい。
うーんいいっすね〜
褒めても全然嬉しそうじゃないけど。
合流してからすぐ歩き出し、
コロナで仕事がどうやとか、休みがどうやとか言いながら
何を言い合うでもなくホテルに直行した。


部屋に着いてから彼はソファにどかっと座って
あー疲れた。帰って寝たい。
というようなことを言っていた。
ほんとに何をしに来たんだろうなこいつは。
顔だけ洗いたいと言って突然立ち上がったり、
テレビをつけて映画のラインナップを確認したり
どこか落ち着きがなかった。
久々だから距離感を忘れてるんだろうか。


半ば呆れながらも、なんともない顔をして座ってると、ようやく彼も一息ついた。
そしてそのまま腕を肩口に回し、耳をくすぐった。
思わず、んっ、と声を漏らすと
こんだけでもうそんな気分なれんの?
簡単すぎない?
とムードもへったくれもない声で意地悪を言われた。
マジでこの人何しに来たんだろう?
私としたかったんじゃなかったのか?


ただこうやって揚げ足をとって自分の機嫌を損ねていても仕方ないので気にしないことにして
私からキスをしようとした。
しかしまた意地悪されて顔を背けられた。
私が不貞腐れていると今度は強引にキスされた。
こういうテンポ感にきゃっきゃするMのセフレがいるんだろうか。
こいつはいつもこんな感じだ。


なんやかんややってるうちに楽しくなるものだけど
この日はどことなく俯瞰してる自分がいた。
ベッドにいこうと手を引き、見つめ合っても不思議な気持ちだった。
なんだか変に緊張ばかりして脇汗がやばかったのをいじられた記憶だけある。
没頭してないような浮ついた空気がずっと漂っていた。