せいせいかつ日記

大きな声では言えないような話をします。

キスマーク③

お酒、少し飲めばよかったな
と彼が不意に言う。
理由はよく分からなかった。
彼は私の首や耳を指先で撫で、太ももに手を這わせた。
しれっとした態度でそういうことをしてくるから反応してる私がおかしいみたいだ。
私が体をくねらせるのを見て、楽しそうに笑う。
ムラムラするからやめて〜
と言ったのは逆効果だったようで、顔を近づけてキスする間近で止められた。
いやだめだめ、ここ公園だし私は何をやってるんだ。
まんまと手の内で転がされてるのは分かっていても、どうにもこのペースになるとダメだ。


いつもならここからしばらく私をからかって遊ぶ彼だが、彼は彼で余裕がないのか
もう帰る?
と聞いては私に引き留めさせ
ならどうする?
という質問をしてくる。
時間には余裕があるという彼の一方で、翌日1限から講義が控えている私にはここにいられる時間のカウントダウンが始まっていた。
周到な演出か、彼の背景にラブホテルが見える。
まさか、平日の夜にラブホテルに行くかどうか頭を悩ませる日が来るとは。
私が唸っていると、
行きたくないならここでちゅーだけして帰ろ
と言った。
ちゅーはしたいのか。可愛いな。
えー、帰れないよこんな状態で!
と言うと
じゃあラブホ行く?
と聞いてくる。
私に決めさせて全部言わせようとしてくるところはほんとにずるい。
優位に立ちたいのだろうと思い、
そっちがどう思ってるか分からないから私も決められないよ、と答えると
行きたくなかったら俺はこんなこと言わない
と想定より素直な言葉が返ってきて面食らってしまう。
考えてみればそれはそうなのだろうけど。


結論から言って私が完全に押し負けして、腰を浮かせた。
腰を重くしていた要因として次の日の授業と彼のキスマークがあった。
授業は日付が変わる前に帰り、あとは全てを妥協して寝ればなんとか乗り切れるだろう、と自分に言い聞かせる。
キスマークは…
そもそも私の性欲を駆り立ててラブホテルにまで誘い出しておいて、キスマークがあるなんてことはさすがにないだろう。
変な虫に刺された痕なのかもしれない。
よく確認したわけでもないし、
とそれこそ自分に言い聞かせ、都合良い解釈を採用した。


ホテルに到着して部屋に入ってからまずトイレに行ったのでなだれ込むように、という感じでもなかったが、
彼の手付きは性急に感じた。
それは私も同じで、ベッドに座っていた彼の肩に手をかけてそのまま押し倒す。
上に乗りかかってキスをすると、
もう時間もないし服脱ごっか
と彼が言った。
その日私はちょっと脱がせるのに手こずりそうな服を着ていたので、自分で脱ぎ始める。
彼も上体を起こして服を脱いだ。
まだ灯りも消していないのに私が着々と脱ぐので、
明るくてもあんまり恥ずかしがらないタイプ?
と聞かれた。
しまった〜、セフレは明るいと可愛らしく恥ずかしがって見せたりするのかな
普通に脱いでた。
あー、下はあんまりじっくり見られると恥ずかしいかな…
と答えておく。
嘘ではない。
やっぱりそうなのか、
と彼は灯りを消した。
彼氏がそういうことをしないので感覚が
麻痺しているが、セックスをするときには部屋を暗くするのが常識なのかもしれない。
そういや彼はいつも暗くする。
明るいと落ち着かないのは彼の方なのかもしれないと思った。


お互いに体を隠すものがなくなったところで、彼がゆっくり私に乗りかかる。
そのときに


もう目を背けられないほどしっかりと見せつけられてしまった。


彼の首筋と、
鎖骨の上と
反対側の鎖骨の上とで
みっつ


赤黒く残されたキスマークを。

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