せいせいかつ日記

大きな声では言えないような話をします。

詐欺 完結

そのあと彼はすぐにパンツをはいて今すぐにでも寝ようという形だった。
イケたから満足という感じ。
それも自分が満足というより、イケるまで頑張った俺を褒めてくれというような態度だった。


私は以前に、彼氏とのセックスで一回しか挿入ができないことについて話していた。
その問題自体はもう解決に向かっていて触れるようなことでもないのだが、
その人はそれを覚えていて
何度もするってすごい難しいことだと俺も思うよ、
と聞いてもないのに彼氏のフォローを入れた。


彼は布団に潜って
疲れた〜と言いながら伸びをする。
お前さっきまで寝てただけだろ、とツッコみたかったけどイクというのはそれだけで体力を使うだろうからまあ仕方ないんだなと思い、
冷めざめとした気持ちで彼を眺めた。


私は眠くないんだよね、と言うと
ならシャワー浴びてきたら?
と提案された。
シャワー浴びて帰ってきたら爆睡してるんでしょ、嫌だよ、
と答えると
起きててそこに座って待っててあげるから
と言って意外にも起きだした。


浴槽にお湯を溜める間、鏡の前で並んで歯を磨いた。
二人ともパンツしかはいていないというあられもない姿で滑稽だった。
彼は鏡を見てようやく肩のキスマークに気づき
自分キスマークつけすぎ!!
と割と本気で怒っていた。
ざまぁみろ。


結局2人でシャワーを浴びることになったけど、
一緒に入るかー
という彼の発言から私が想定してたのとは違って、
私がシャワーを使い終わるまでは外で待ち、使い終わって浴槽に足をかけたところで入ってきた。


彼は終わっていない課題のことが気になり出したようで、
シャワーを浴びながら
やらないとやばい、終わらない
早く帰ってやりたい
というようなことばかり言っていた。
彼の声は通りにくく、シャワーの音に掻き消された。
正確に聞き取るのも面倒な気がして、なんとなく聞こえたことに適当に返事をした。


彼とシャワーを浴びるなんて、過去の私は想像もしなかっただろう。
だけど私が妄想するような甘い空気感なんて微塵も感じられない。
彼の目にはもう私は映っていなかった。


2人で会う時、彼はいつも
レポートが終わってないんだとか
サークルの仕事がとか
ブツブツ言って早く帰りたいという空気を出す。
実際話し始めたら長いこといてくれることが多いけど、
彼がもういいって判断したら
あー、やばいやらないと
って騒ぎ出してバタバタ帰りだす。
帰り道とかはいつも今から帰ったら何をしないといけないんだとか、これから怒涛のスケジュールでしんどいんだとかいうことを喚いていて、
それに返事をしているうちに家に着く。
いつものこれが今。


ちゃんと来て、構ってくれるだけありがたいんだけど。
彼は気分の浮き沈みが激しいから口で言ってることを鵜呑みにしたらだめなんだろうけど。
彼から今日は楽しかったよっていう言葉を聞いた覚えがほとんどなかった。
だいたい私が帰ってからLINEでお礼を言って、彼がそこに被せてくる感じ。
言わされてるとまで言わないけど、彼の本心なのかはずっと謎だった。
そんなことを考えている私は本当に面倒な存在だろう。


このとき時刻は3時を回ったあたりで、家にいたら寝ているであろう時間だった。
だけどホテルのチェックアウトは昼の12時。
そんなにバタバタしなくても十分休む時間はあるのに。
せっかく一緒にいられるんだからえっちはやめにしてもお話とかしたいのに。
言っても無駄なんだろうなと思った。


そうやって私が無表情に湯船に浸かっていると
彼はこちらを向いて
ごめんね、
と言った。


さっきまでの私を宥めるごめんごめんとは違う、彼が自分の意思で発した言葉。
なんだかすごく辛くなった。


今日という日が彼にとって少しは楽しみな一日だったのか、楽しい一日だったのか、私には全く見当もつかない。
結局意図も分からない。
ただ謝るってことは酷いことをしたって思ってるってことで。
私が傷つくのは前の日の通話である程度分かっていたはずで。
それでも彼はこの方法をとった。


電話越しに俺童貞じゃないよ、ってカミングアウトされたとして傷つかなかったとは正直言えない。
何者でもない私はおこがましくも嫉妬に狂って塞ぎ込んだかもしれない。
だけど、今日はなんだ?
私だけ一人で踊らされて
馬鹿みたいだったなぁ。


黙っていると自分がなくなってしまいそうで
酷すぎるよ、許さない!
と拗ねた顔を作って言ってみた。
すると
ごめん、もう連絡も一切しないし許して、
と言われた。


そうなるのか。
私が怒ったらもう連絡くれなくなるんだ。
こんなに辛いのに、私はそのことのほうがもっと辛いような気がした。
彼に何も望めないのは分かってるけど、もしこれで関係を断ち切られたら私はいよいよ立ち直れないだろう。
どうしてそんな風に考えてしまうのか分からない。
だけど私は彼とまだ繋がっていたかった。


どうして嘘をついたのか聞いたら
彼女もいないのに童貞じゃないってやばくない?
と苦笑いをしていた。
悩む、と答えた理由にはそれもあったらしい。
セフレという存在は後ろめたかったのだろうか。
私は彼氏がいるから考えたことがなかったが、確かに
彼氏いたことないけど初体験はもう終わってます、
って言葉だけ聞くと、ふしだらな子に思われるかもしれない。
とはいえもう大学生だし成人でもある。
おそらく彼女なしの非童貞は常々のコンプレックスで、
私に言えなかったのはいつも私が夢見がちに彼の童貞を欲しがったからだろう。


あんなプレイされたらさすがに童貞じゃないのは誰でも分かっちゃうよ、
と私は親切心で教えてあげた。
隠し通せるとは思ってなかったらしいけど、挿入は苦手そうだったから童貞設定のほうが気が楽なのかもしれない。


そんなことを言いながら彼も湯船に入ってきた。
高身長の彼が女と入るには狭すぎるサイズで、私たちはぎちぎちに浴槽の中に詰め込まれた。


彼と密着したいとずっと思っていた。
彼に触れている女に嫉妬した。
だけど私の欲望は
彼も私と同じようにドキドキしてくれるんじゃないかという妄想で一セットだったとこのときわかった。
彼の特に何も感じていないような顔を見ていたら、この時間もさほど特別なものではない気がした。


彼が出たのに合わせて私も出ることにした。
それぞれがそれぞれの体を拭いて、それぞれ服を着た。
備え付けの衣服ではなく、自分が今日着てきたものだ。
彼は私より先に脱衣所をあとにして、ソファでテレビをつけてスマホの動画を見ていた。
私は私でのんびりドライヤーで髪を乾かしてできるだけ見苦しくないようにした。


私が彼の横に座ったとき、彼は私の脚をまじまじと見た。
風呂上がりで火照っていたのでタイツははかなかった。
もし生脚に何か感ずるところがあったならそれだけは今日の収穫と言えよう。


彼と置いてあったおやつを食べながら、スマホの動画を2人で見た。
いつも通りの過ごし方だった。


お菓子がなくなったあたりで彼は再びベッドにダイブした。
後から向かった私のミニスカを捲くるとかいう小学生じみたイタズラをした。
そのあとすぐ布団に入って彼は二度目の睡眠に入った。
私は全然寝られなかったけど、もう彼を起こす理由もないのでとりあえず寝る努力をした。


このあとはもう書くようなことはない。


10時に目覚めた彼がバイトが9時からだったと大騒ぎして寝癖を直す手間も惜しんでホテルから出たのはもはや想定内だ。
部屋を出てから彼の家に至るまでずっと
やばいやばいと騒いでいた。
私はもう何も言えなくて、
おつかれさま
とだけ声をかけて別れた。
いつも通りの帰り道だった。


私が童貞詐欺にあったというそれだけの話。

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